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Special

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吸血姫 美夕 〜MotherMoon〜






「ねぇラヴァ…今日は月が殆んど無いわね。」
「そうですね。」


いつもの木の切り株の上で、お互い無表情で会話を交わす。夜の竹林は誰も通らない。犬の遠吠えが少し耳に入ってくるぐらいだ。さわさわさわ…と夜風が鳴らす竹の葉の音だけは煩いぐらいに重なり合い、彼らの会話も存在も全て闇に隠す。



「じゃあ今日の新しい『紅い月』は……一番上の方に飾ってあげましょう?」
「・・・・美夕の御心のままに・・・。」
「うふ、うふふふふ・・・ふふ・・・・。」

美夕は、一見ご機嫌な様子で声を出して笑う。ラヴァがマスクの中で一瞬目を細めたのは、美夕は分からない。が、ラヴァの手が美夕の手をそっととり、マスクを外した。

「美夕、美夕・・・・もう、戻りましょう?」
「平気よ・・・。」
「今日は「彼」を闇に返した。お疲れでしょう。ここには愛でるような月も無いですし…。」
「ね、ラヴァ・・・・血を分けて?」
「・・・・・構いませんが・・・・その後はお休みになられないと・・・・。」
「ラヴァ。」

美夕の少し強い語尾に、ラヴァの心配した声は先を続ける事はなかった。すっ・・・とフードを取り去り、首筋を露わにする。「どうぞ」と短く口にしたラヴァは、ほんの少しだけにこり、と笑った。それは、彼が美夕への忠誠心を表しているのか、それとも彼女を安心させるためのモノなのかは分からない。

彼女の瞳が金色に輝く。腕が彼の首筋に柔らかく絡みつき、まるで口付けをするようにうっとりした表情を浮かべて、彼を見あげた。彼もそんな彼女の背中を支えて、抱き寄せる。近づいた彼女の唇が、ちぅ・・・と柔らかくラヴァの唇を捉えて、わずか唇の動きだけで、「ありがと」と彼に伝えた。彼も、「どうぞ」ともう一度繰り返し、彼女の唇を弱く吸って応えた。

そのまま彼女の瞳は更に金色を帯びて、彼の瞳を覗き込む。彼女がにこりと笑うと、彼は彼女の後頭部を撫で、その先の行為を自ら勧めた。彼女の唇のゆるやかな動きと、それに反する鋭い犬歯の、肌をプツッ…と鈍い痛みを伴う動きを見ながら、彼は相変わらず無表情のまま彼女を支えて、安心させるように背中を撫でてやる。

彼の血が…彼女の喉を潤していく。そして、体温は無いはずなのに、彼女の身体が徐々に温かくなっていく気がする。きっと、彼女が満足しているせいで、纏っているオーラも合わせて満足でもして強くなっているのだろう。それが彼の満足に繋がる。そして、その彼の血が彼女の身体の中に流れ込むたびに、彼に彼女の心を強く知らせる。喜び、哀しみ、怒り。そして、彼を思う彼女の切ないまでの気持ち。家族、主従、恋愛…そんなどんな関係のカテゴリーにも当てはまるような彼らの繋がりは強く、どんなに歳月を重ねても変わらない。寧ろより強固になっているのだろう。血を与える事、彼女を傍で守る事、それが彼の今の存在意義であって、全てである。だから彼女が彼の血を求めるとき、彼は満足する。それはまるで独占欲のようにも見える。

自分だけの腕の中でと願っても、彼女は気まぐれ。見た目も心も綺麗な男が好きで、行く先々で彼女が与える「夢」と引き換えに、血を貰う。心が綺麗過ぎて、生きていけない人間は少なからずいる。それが神魔を誘き寄せる。神魔を払ったあとの人間は、憑物が取れた状態にも拘らず、再生はしない・・・。美夕はその彼らの心を吸血と引き換えに夢で救う。ある意味利害関係は一致している。



今日「夢」を与えた「彼」を思う彼女の心も、ラヴァの中にはっきりと伝わった。



『たった一人でいい、家族が欲しかったんだ・・・・』



孤児院で寂しく暮らしていた彼が家族に選んでしまった、彼が望むような優しい面持ちの・・・人間の女性の形をしたはぐれ神魔。彼はそれを姉とも母とも・・・・まるで恋人とも取れるように、心から愛していた。はぐれ神魔も、彼を心から愛していた。


『彼の心を救ってあげて・・・・それなら闇へ帰ります。』


はぐれ神魔は美夕を見てすぐ、逃げる訳でもなく悟ったように、静かにそう言った。彼を一度だけ最期に見て、すっと流れた涙が、美夕の決断を一瞬鈍らせた・・・けれど。


『オヤスミ・・・はぐれ神魔さん・・・・・』


美夕の炎は一瞬にして彼女を闇の中へ帰した。母であり姉であった唯一の心の拠り所だったはぐれ神魔が目の前で居なくなり、彼は生きる事をやすやすと放棄した。


『どうして僕の初めての家族を・・・・!』


力なく美夕を責め立てた彼の最期の言葉は、人間の頃の優しい心のままに、美夕を傷つける。


『もう、ひとりぼっちじゃないよ・・・・永遠の夢の中で、おやすみなさい・・・・』


いつもの台詞を彼に投げかけると、彼女はそっと、彼の首筋に歯を突き立てた。


『あぁ・・・・』


恍惚な表情を浮かべた彼は、すぐに「幸せな夢の中」に入っていった。美夕の手には、彼を収めた「真紅の丸い月」が収まった。


「ラヴァ・・・帰りましょう。」


その言葉と共にふわり、と彼女と真紅の月を包み込んだラヴァは、いつもの竹林へ移動した。彼女が紅い国へ戻るのを拒否したからだ。


「どうされました・・・?」
「今日はここで夜を過ごしましょう?」
「はい・・・・。」


そうして、今に至る。


今夜空に月は無い。しかし、代わりに傍にある紅い月の中で幸せな夢を見る彼を、彼女は無表情で見つめる。


『おかあさん、おかあさん、どうして・・・・・!!!』


美夕の心が、ラヴァに強く流れ込む。美夕は過去の自分の記憶を反芻している。母との辛い別れが、今でも彼女の心の奥底で繰り返し呼び起こされている。いつか、ラヴァが同じように居なくなる事を強く恐れている。


『大丈夫ですよ・・・・』


ラヴァはどの心に応えたのか、強く心の中で美夕に自分の心を投げかけた。すると彼女は、ようやく食餌をしていた唇を首筋から離した。ラヴァが美夕の濡れた唇を指で拭い、その指を舐めた。そこからは何も感情は読み取れない。ただうっすらと自分の血の味がした。


「家族が欲しいと願う人間も居れば・・・・家族なんて鬱陶しいからいらないといって捨てていく人間もいる・・・。本当に人間て無いものねだりなのね・・・。」



ラヴァは何も応えない。ただ、美夕の手を取って、紅い月ごと抱きしめる。美夕の言葉と裏腹の切ない心が、痛いほど分かるからだ・・・・・。





『遠い昔私には愛してくれた家族が確かにいた・・・・。』
『今もラヴァがいてくれる・・・・。』
『彼は・・・・』




紅い月の中では、「母」に優しく抱きしめられた「彼」が優しく微笑んでいた。








2006.11.5


藍様より1000HIT祝いに頂いた「吸血姫 美夕」のSSですv。
「赤い月」繋がりで書いて下さったそうで感謝感激の一言ですっvv。
私が(美夕を)知らない作品だろうとご自身のサイトにUPして下さっていたのですが、
実は私も知っている大好きな作品で(笑)今回こちらにもUPさせて頂きました。
藍様、気を遣わせて済みません(ぺこり)。

でも美夕を読み始めた時期は多忙で、全部見られなかったんですよね。
だからかなり心残りだった作品なんです。
まさかこうして再びこのような形でお目に掛かれるとは思いませんでした(嬉)

ページ上の月は「月世界への招待」様からお借りして加工しました。
月のようであり、月でないという美夕の「紅い月」らしくなったでしょうか。